老人ホームとは、高齢者が安心して暮らせる住居施設です。高齢化社会に伴い、老人ホームの開業を検討する人もいるのではないでしょうか。この記事では、老人ホームを開業する人に向け、開業に必要な設備やスタッフの要件、開業するメリット・デメリットなどを解説します。事業の成功にお役立てください。
老人ホームとは?
老人ホームとは、高齢者が健康かつ安全に暮らすための設備を備えた住居施設です。老人ホームには「特別養護老人ホーム」と「有料老人ホーム」の2種類があり、民間で開業できる施設は有料老人ホームのみです。特別養護老人ホームは、公的団体しか運営できません。
有料老人ホームを開業するためには、老人ホームの種類ごとに必要な要件を満たし、自治体への届け出が必要です。
老人ホームの開業数の増加
厚生労働省の「特定施設入居者生活介護」によると、2000年から2019年にかけ、有料老人ホームの件数は増加しています。高齢化社会により、老人ホームの需要は高いと考えられます。
ただし競合が多いため、十分な入居者を確保しないと事業が成功しません。開業する地域でどのような施設が求められているかを調べることが、事業を成功させるポイントです。
開業の前に知りたい民間老人ホームの種類
老人ホームといっても、さまざまな種類があります。以下では、民間の老人ホームについて紹介します。
1.健康型有料老人ホーム
健康型有料老人ホームとは、介護の必要性が低い高齢者が入居する施設です。そのため、入居中に要介護認定を受けた高齢者には、退去してもらわなければなりません。
健康型有料老人ホームで用意するサービスは、家事のサポート程度で構いません。老後を同年代の仲間と楽しみながら暮らしたいという高齢者もいるため、娯楽に関するサービスも検討しましょう。
2.介護付有料老人ホーム
介護付有料老人ホームは、都道府県または市町村から「特定施設入居者生活介護」の指定を受けた施設です。特定施設入居者生活介護とは、介護保険法に基づき、入居者に一定水準のサービスを提供できる施設です。
なお特定施設入居者生活介護には、特定施設の事業者が介護をする「一般型」と、特定施設の事業者がケアプラン作成などのマネジメントをし、介護は委託する「外部サービス利用型」があります。
介護付有料老人ホームは、食事・入浴・排泄・掃除・機能訓練など、介護から生活支援まで幅広いサポートを提供します。
3.住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームでは、介護以外のサポートを提供できます。食事や清掃、緊急時の対応や日頃の見守りなどのサービスを用意しましょう。
住宅型有料老人ホームで介護サービスを提供したい場合は、訪問介護施設やデイサービスケアなど外部サービスと連携する必要があります。
老人ホームと形態が似ている施設
サービス付き高齢者住宅とグループホームは、老人ホームではありません。以下では、老人ホームと形態が似ている施設について紹介します。
老人ホームと似ている施設1.サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、自立した高齢者が入居する施設です。老人ホームは、基本的に入居者が生涯利用できます。一方、サービス付き高齢者向け住宅は賃貸契約です。
サービス付き高齢者向け住宅は、補助金や税制優遇措置の対象です。開業や運営の費用を抑えたい人は、サービス付き高齢者向け住宅の開業も検討しましょう。
老人ホームと似ている施設2.グループホーム
グループホームは、入居者同士で料理、掃除といった家事を分担して共同生活を送る施設です。要介護1(一部要支援2)以上の、介護認定を受けている認知症の人が入居の対象となります。
グループホームはスタッフも入居者も少人数であり、施設の個性が出やすくなります。高齢者によっては施設がマッチしない可能性があるため、ショートステイなど事前に雰囲気を感じ取れるプランを用意しておくと安心です。
老人ホームを開業する際に必要な設備・スタッフの要件
老人ホームを開業する際にすべきことがいくつかあります。ここでは、必要な設備や、スタッフの要件について解説します。
1.施設の設備など
住宅型有料老人ホームには、設備に対する法的な決まりがありません。しかし、高齢者の健康と安全を守るためには、実質、以下の設備が必要です。
- 食堂
- 浴室と脱衣室
- 洗面所
- 洗濯設備
- トイレ
- 汚物処理室
- 機能訓練室
- 医務室
- 職員室や事務室
- 談話室
- ナースコールなどの緊急通報装置
- スプリンクラー など
介護付有料老人ホームに必要な設備は、法的に定められています。主な設備基準は以下のとおりです。
- 介護居室は原則個室とし、介護に適当な広さを確保する
- 介護居室は地階に設けない
- 一時介護室は介護を行うために適当な広さを確保する
- 浴室には身体の不自由な高齢者に対して適した設備を用意する
- トイレは居室のある階ごとに設置し、非常用設備を備える
- 食堂、機能訓練室は機能を十分に発揮できる広さにする
- 施設全体は入居者が車椅子で円滑に移動できる空間や構造とする
2.スタッフの資格・人員配置
介護付有料老人ホームのスタッフには、実質、以下の資格に相当するスキルが求められます。
- 介護福祉士または介護職員初任者研修修了者
- 介護支援専門員(ケアマネジャー)
- 社会福祉士
- 栄養士または管理栄養士
- 看護師、理学療法士、作業療法士など看護や機能訓練に関わる資格
介護付有料老人ホームは、以下の人員配置の基準が決められています。
管理者 | 1人(兼務可) |
生活相談員 | 要介護者等100人につき1人 |
看護・介護職員 | 要支援者10人につき1人 要介護者3人につき1人 |
機能訓練指導員 | 1人以上(兼務可) |
計画作成担当を行う介護支援専門員 (ケアマネジャー) | 1人以上(兼務可) |
諸条件などの詳細は、下記の厚生労働省の資料を参考にしてください。
老人ホーム開業のメリット・デメリット
老人ホームを開業すると社会的に貢献でき、事業に成功すれば高収益が見込めます。老人ホーム開業のメリット・デメリットを解説します。
老人ホーム開業のメリット
老人ホームの開業を通じて、社会貢献が可能です。高齢者や家族をサポートする老人ホームは、今後も社会的に必要な施設といえます。また、老人ホームを開業すると、高収益が見込めます。地域のニーズにマッチした老人ホームを運営し、大勢の入居者を確保しましょう。
土地を所有する人は、節税効果にも注目してください。老人ホームを建築すると、相続税や固定資産税などで減税措置を受けられ、高い節税効果を得られます。
老人ホーム開業のデメリット
老人ホームには、高額な開業資金がかかります。しかし、老人ホームを開業しても国からの補助金・助成金は受けられません。開業資金に不安があれば、サービス付き高齢者向け住宅の開業も候補に入れましょう。なお、老人ホーム開業で受けられる融資や助成金もあります。具体的な資金調達方法は、後ほど解説します。
また老人ホームは、転用が難しい物件です。もし廃業する場合は、事業ごと売却する、居抜き物件として売り出すなどの選択肢があります。
老人ホーム開業にかかる費用の目安
老人ホームを開業するためには、数億円レベルの開業費が必要です。老人ホームには、広大な土地と専用の設備を持つ建物が求められます。一般的なアパートやマンションは利用しにくいため、自身で土地を確保し、要件を満たす施設を建設しなければなりません。
少しでも費用を抑えたい場合は、居抜き物件の活用も検討してみてください。ただし大規模なリフォームが必要になる可能性があることも考慮しましょう。
老人ホームを開業する流れ
老人ホームを開業する流れを紹介します。開業に必要な届け出も紹介しますので、併せて確認してください。
1.開業する施設の種類を考える
上述したとおり、開業予定の場所ごとに適した施設は異なります。そのため、将来的にその土地の高齢者の数を予想し、十分な収益が見込める施設を検討しましょう。
注意点としては、総量規制の問題で、都道府県によっては目的の施設を開業できない恐れもあります。総量規制は、介護保険料の増加を抑制するために設定されています。綿密な開業計画を立てる前に、総量規制に抵触しないか市区町村や都道府県に確認してください。
2.市区町村や都道府県と話し合う
老人ホームの開業にあたり、市区町村や都道府県の担当者と話し合うべき内容を以下にまとめました。
- 総量規制など介護保険事業計画上の調整
- 設置予定地に関する法令の規制
- 土地の取得
話し合いの終了後は自治体による審査が行われます。
3.開業・運営資金を準備する
サービス付き高齢者向け住宅とは異なり、老人ホームは国の補助金・助成金制度の対象ではありません。以下に、開業・運営資金の調達手段の一例を紹介します。
- 銀行の高齢者施設サポートローンや介護施設提携ローン
- 日本政策金融公庫の「ソーシャルビジネス支援資金」「女性、若者/シニア起業家支援資金」
- 独立行政法人福祉医療機構(WAM)の助成金や融資
- 各自治体の公的融資
※参考:ソーシャルビジネス支援資金│日本政策金融公庫
※参考:女性、若者/シニア起業家支援資金│日本政策金融公庫
※参考:WAM助成(社会福祉振興助成事業)│独立行政法人福祉医療機構
4.スタッフや備品の確保をする
自治体の審査に通ったら、老人ホーム経営母体となる法人を設立します。続いて、老人ホームの建築確認申請を提出し、老人ホームを建築しましょう。建築と並行し、スタッフと備品の準備にも着手してください。
5.必要な届け出を出す
自治体で定められた設置届を提出します。介護付有料老人ホームを開業する場合は、「特定施設入居者生活介護」の指定申請も必要です。届け出の申請期限は、自治体ごとに個別に確認してください。
まとめ
老人ホームの需要は今後も高まっていくと考えられます。開業するエリアを調査し、その土地の高齢者にマッチする老人ホームを開業しましょう。入居者の安全を管理するためには、BPS株式会社の入退室管理システム「入退くん」がおすすめです。1人あたり月額55円の業界最安価格で利用できるうえに、初期費用は無料で、入退出通知をLINEで受け取れます。