保育現場における「不適切保育」がニュースなどで取り上げられる機会が増えています。
殴る・蹴るといった明らかな虐待だけでなく、「大きな声で叱る」「子どもの腕を引っ張る」「食事を無理に食べさせる」など、日常の保育のなかで起こり得る行為が問題となるケースもあります。
一方で、保育士のなかには「どこからが不適切保育になるの?」「注意することまで不適切と言われたら保育ができない」と戸惑う人もいるでしょう。
そこで本記事では、不適切保育の意味や具体例、発生する背景、保育園でできる防止策について解説します。2025年10月から始まった保育所等における虐待の通報義務についても紹介するので、保育園を運営する方や保育士の方は参考にしてください。
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不適切保育とは
「不適切保育」は、子どもの人権や人格を尊重するという観点から、改善が必要だと考えられる保育上の関わりを指す言葉として使われてきました。
厚生労働省が公表した過去の手引きでは、「保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、保育所保育指針に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為」と整理されていました。
ただし、現在の制度を理解する際には「不適切保育」という言葉だけで考えないことも重要です。
改正児童福祉法の試行がきっかけに
2025年10月1日に改正児童福祉法等が施行され、保育所等の職員による虐待について新たに通報義務が設けられました。現在、国のガイドラインでは「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」の4類型を中心に、虐待の防止や発生時の対応が整理され、2026年4月にはガイドラインも改訂されています。
つまり、近年「通報義務が設けられた」というだけで、保育所を含む児童福祉施設については以前から職員が子どもに虐待その他の心身に有害な影響を与える行為をしてはならないと定められていました(「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」第9条の2)。
「不適切かどうか」という線引きだけにこだわるのではなく、子どもの権利を侵害する関わりになっていないか、虐待につながる行為ではないかという視点で日々の保育を振り返ることが大切です。
(参考:こども家庭庁「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」、「令和7年4月に成立した改正児童福祉法について(保育関係)」)
不適切保育と虐待の違い
不適切保育と虐待は、必ずしも同じ意味で使われるわけではありません。
過去のガイドラインでは、「こどもの人権擁護の観点から望ましくないと考えられるかかわり」の中でも、虐待等が疑われる事案を「いわゆる不適切な保育」として整理していました。
一方、現在の児童福祉法では、保育所等の職員による虐待について次の4種類が明確に定められています。
| 種類 | 主な内容 |
|---|---|
| 身体的虐待 | 子どもを叩く、蹴るなど、外傷が生じる・生じるおそれのある暴行 |
| 性的虐待 | 子どもにわいせつな行為をする、またはさせる行為 |
| ネグレクト | 著しい減食や長時間の放置など、職員としての業務を著しく怠る行為 |
| 心理的虐待 | 著しい暴言や拒絶的な対応など、子どもに著しい心理的外傷を与える言動 |
こども家庭庁も、現在のガイドラインでこの4類型を整理しています。
日常的な保育の振り返りでは、「法律上の虐待に該当するか」だけを判断基準にしないことも重要です。虐待とまでは判断されなくても、子どもの人格を傷つけたり、恐怖心を与えたりする関わりであれば改善する必要があります。
不適切保育の具体例
では、具体的にどのような行為に注意すればよいのでしょうか。
過去の厚生労働省の手引きでは、不適切な保育につながる行為について「子どもの人格を尊重しない関わり」「物事を強要する関わりや脅迫的な言葉がけ」「罰を与える・乱暴な関わり」「育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり」「差別的な関わり」という5つの観点が示されています。
子どもの人格を尊重しない関わり
子どもの気持ちを無視したり、人前で必要以上に恥をかかせたりするような関わりには注意が必要です。
大人にとっては軽い冗談でも、子どもにとっては大きな心理的負担になる場合があります。
- 失敗した子どもをみんなの前で笑ったり、からかったりする
- 「またできなかったの?」「本当にダメだね」など、人格まで否定するような言葉をかける
- 子どもが嫌がっているあだ名や呼び方を繰り返し使う
- 泣いている子どもに「そんなことで泣かないの」「赤ちゃんみたい」などと言って気持ちを軽視する
- 子どもの話を聞かず、「あなたが悪い」と一方的に決めつける
物事を強要する・脅すような関わり
「全部食べないと遊べないよ」「寝ないなら廊下に出すよ」など、恐怖や不利益を使って子どもを従わせるような関わりにも注意しましょう。
食事や午睡、着替え、排泄などは、保育園で毎日繰り返される場面だからこそ、不適切な関わりが習慣化しやすい場面でもあります。
子どもが行動できない理由を考えず、「言うことを聞かせること」自体が目的になっていないか振り返ることが大切です。
- 「全部食べないと遊べないよ」と言って、完食を強要する
- 「寝ないなら先生もう知らないよ」などと不安をあおって従わせる
- 「早く着替えないと置いていくよ」と脅すように急かす
- 嫌がっている子どもに、無理やり活動への参加を求める
- 「言うことを聞かないならお母さんに言うよ」など、子どもが嫌がることを持ち出して行動させる
罰を与える・乱暴に扱う
子どもの腕を強く引っ張る、無理やり座らせる、押す、閉じ込めるなどの行為も問題となる可能性があります。
実際に2026年に東京都目黒区が公表した認可保育園の事案でも、園児の手を引っ張る行為や無理やり座らせる行為などが確認されています。
「危ないからとっさに腕をつかんだ」というケースと、「言うことを聞かないから力で従わせた」というケースでは状況が異なります。行為だけを切り取るのではなく、目的や必要性、力の程度、前後の状況なども含めて検証する必要があります。
- 子どもの腕を強く引っ張ったり、無理やり移動させたりする
- 言うことを聞かない子どもを強い力で座らせる
- 子どもの体を押したり、乱暴に抱き上げたりする
- 罰として一人だけ別の場所に長時間座らせる
- 失敗やルール違反への罰として、遊びや活動への参加を禁止する
(参考:https://www.city.meguro.tokyo.jp/kouhou/kusei/kouhou/pr20260513.html)
子どもの発達や家庭環境に配慮しない関わり
同じ年齢であっても、発達のスピードや得意・不得意は一人ひとり異なります。
それにもかかわらず一律の基準で責めれば、子どもの自己肯定感を傷つける可能性があります。
家庭環境について子どもの前で否定的な発言をしたり、保護者の職業や家庭事情を揶揄したりすることも避けなければなりません。
- 「もう○歳なんだからできるでしょ」と、発達段階を考慮せずに行動を求める
- 苦手なことがある子どもに対して、「みんなはできているのに」と他の子と比較する
- 発達特性や障害による行動を「わがまま」「しつけができていない」と決めつける
- 「〇〇ちゃん家は生活保護だから」「親が公務員だから」などと家庭状況にまつわる発言をする
- 日本語に慣れていない子どもや家庭に対して、必要な説明や配慮をせず一律の対応を求める
特定の子どもを差別する関わり
子どもの性格や発達、性別、国籍、家庭環境などによって扱いを変えることも不適切な関わりにつながります。
もちろん、一人ひとりの発達や特性に合わせて対応を変える「個別的な配慮」は差別ではありません。
問題なのは、「この子はどうせできない」「この子は面倒だから後回し」といった先入観によって、保育の機会や関わり方に不当な差をつけることです。
- 「この子は手がかかるから」と決めつけ、他の子より関わる時間を減らす
- 特定の子どもだけを繰り返し叱ったり、必要以上に厳しく接したりする
- お気に入りの子どもだけを優先して褒めたり、活動の中心に選んだりする
- 「男の子だからままごとしないでしょ」「日本人じゃないから分からないよね」と言って遊びや行動を制限する
- 「〇〇ちゃんのママお迎え遅いから後回しでいいよね」など、家庭の状況を理由に対応や扱いを変える
なぜ不適切保育は起こるのか?具体的な対策と共に解説
不適切保育が発生すると、行為をした保育士個人の問題として捉えられがちです。
しかし、「その保育士が悪かった」で終わらせるのではなく、起こりやすくなる傾向とそれに対する対策を持っておくことで、再発防止に繋がります。
人手不足で保育士に余裕がない
少ない人数で多くの子どもを見なければならない状況では、保育士に精神的・時間的な余裕がなくなります。
特に、登園・降園、給食、午睡、着替えなど、複数の子どもを短時間で動かさなければならない場面では、「早くして」「何回言ったら分かるの」といった強い言葉が出やすくなる原因に。
さいたま市が公表している不適切保育の予防資料でも、保育者の孤独感・孤立感や専門知識の不足だけでなく、時間や空間の環境構成なども原因として挙げられています。
- 特定の保育士に負担が集中しないよう、担当配置やシフトを見直し、必要に応じて応援に入れる体制を整える
- 登園・食事・午睡・降園など忙しくなりやすい時間帯は、人員配置や業務分担を見直して時間的な余裕をつくる
- 子どもの人数に対して保育スペースが狭すぎないかを確認し、活動場所や動線を分けて混雑や衝突を減らす
- 連絡帳や出欠確認、保護者連絡などの事務作業をICT化し、保育士が子どもと向き合う時間を確保する
- 主任や園長が定期的に現場の様子を確認し、「忙しすぎる」「対応に困っている」といった小さなサインを早めに把握する
「昔からこうしている」が当たり前になっている
不適切な関わりが長年続いている園では、それが問題だと認識されなくなっていることがあります。
新人保育士が違和感を持っても、「うちでは昔からこうだから」「それくらい普通だよ」と言われれば、指摘することは簡単ではありません。
不適切保育を防ぐためには、個人の倫理観だけに頼らず、園全体で定期的に保育を振り返る仕組みが必要です。
- 月1回など定期的に、日々の保育を振り返るミーティングを設ける
- 保育士向けのセルフチェックシートを活用し、自分の関わり方を定期的に振り返る
- 園内だけの常識に偏らないよう、外部研修や他園の事例を定期的に学ぶ
- 「昔からこうしている」ではなく、現在の保育所保育指針やガイドラインに照らして保育方法を見直す
- 気になる関わりを見つけた職員が、園長や主任以外にも相談できる窓口や担当者を設ける
子どもへの関わり方の選択肢が少ない
子どもが何度伝えても動いてくれないとき、「叱る」「大きな声を出す」「無理に移動させる」以外の方法を知らなければ、不適切な関わりにつながる可能性があります。
発達への理解や声かけの方法、環境の整え方などを学ぶことで、保育士が取れる対応の選択肢は増やせます。
そのため、虐待防止研修だけでなく、日常的な保育技術や発達支援について学ぶ機会を設けることも重要です。
- 子どもの発達段階や特性について学ぶ園内研修を定期的に実施し、「なぜ行動できないのか」を考えられるようにする
- 「早くして」と急かすだけでなく、短く具体的に伝える、選択肢を示すなど、さまざまな声かけ方法を共有する
- 次の行動をイラストや写真、予定表などで見える化し、言葉だけでは理解しにくい子どもにも伝わる環境を整える
- 対応に困った事例を職員同士で共有し、「ほかにどんな関わり方ができたか」を振り返るケース検討の時間を設ける
- 発達支援や保育技術に関する外部研修への参加を促し、学んだ内容を園内で共有する仕組みをつくる
職員同士で指摘しにくい
「あの声かけは少し強すぎるのでは」と思っても、先輩や園長には言いにくいものです。
しかし、誰も指摘できない環境では、小さな違和感が見過ごされ、行為が徐々にエスカレートする可能性があります。
不適切保育を防ぐためには、問題を起こした職員を探すことよりも、「気になった関わりを職員同士で話せるか」という組織風土を整えることが大切です。
- ミーティングで「最近ヒヤッとした対応」を匿名ではなく普通に共有できる時間をつくる
- 匿名で「こんな声かけを見かけて疑問に思った」と投函できるフォームをつくる
- 問題行動の指摘ではなく、「別の対応方法はあったか」を一緒に考える振り返りを行う
- 園長や主任以外にも、相談しやすい第三者や窓口を決めておく
- 職員が違和感を伝えたときに責めたり評価を下げたりせず、「伝えてくれてありがとう」と受け止める
「不適切保育かもしれない」と感じた場合の対応
園内で気になる行為を発見した場合は、「虐待だと確定してから動こう」と考えないことが重要です。
まず子どもの安全を確保したうえで、いつ、どこで、誰が、誰に、どのような行為をしたのかなど、確認できた事実を整理しましょう。
そのうえで園長や施設長などへ速やかに共有し、園として対応します。ただし、園が適切に対応しない場合にまで、職員が一人で問題を抱え込む必要はありません。
どこに通報すべき?
2025年10月1日から、虐待を受けたと思われる子どもを発見した人には、都道府県または市区町村へ速やかに通報する義務が設けられています。通報を受けた自治体についても、事実確認や子どもの安全確保などを行うことが義務化されました。
こども家庭庁・文部科学省の「保育所や幼稚園等における虐待の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」でも、保育所等が組織として適切に対応しない場合には、発見者が一人で抱え込まず、市町村や都道府県の相談窓口・担当部署へ相談することが重要だとされています。
また、適切な通報を理由とする不利益な取り扱いを認めない、という文言も設けられています。たとえば、虐待を通報した職員を解雇・降格したり、給与を減らしたり、不利益な配置転換を行ったりすることなどが「不利益な取扱い」に該当します。また、通報を理由とした嫌がらせや退職強要なども認められません。
ICT化で職員の負担を減らす
保育園では、子どもへの支援だけでなく、保護者との情報共有や日々の事務作業も重要な業務です。
こうした業務をデジタル化することで、職員の負担を減らしながら、保護者にとっても「子どもの様子がわかる」「施設に到着したことを確認できる」といった安心につなげられます。
ビヨンド連絡帳

「ビヨンド連絡帳」は、施設と保護者の連絡をデジタル化できる連絡帳システムです。
日々の子どもの様子や連絡事項をオンラインで共有できるため、紙の連絡帳を準備・管理する手間を減らせます。また、保護者側もスマートフォンなどから内容を確認でき、時間や場所を問わず施設からの連絡を受け取れます。
保護者との情報共有をスムーズにしながら、職員の連絡業務を効率化したい場合におすすめです。
ビヨンド入退くん

「ビヨンド入退くん」は、子どもの入室・退室を記録し、保護者へ通知できる入退室管理システムです。
「施設に無事到着したか」「いつ退室したか」を保護者が確認できるため、送迎や帰宅時の安心につながります。職員にとっても、電話で行っていた入退室確認をデジタル化することで、記録や確認作業の負担軽減が期待できます。
施設の安全管理を強化しながら、保護者への安心提供と業務効率化を両立したい場合は、ビヨンド入退くんの導入をぜひご検討ください。
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最後に:不適切保育を「保育士個人の問題」で終わらせないことが重要
不適切保育をなくすためには、一人ひとりの保育士が子どもの人格や権利を尊重することが大前提です。
しかし、「絶対に怒らないようにしよう」「保育士がもっと気をつけよう」と呼びかけるだけでは、十分な対策とはいえません。
人手不足、過密なスケジュール、相談しにくい職場環境、保育方法に関する知識不足、過剰な事務作業など、不適切な関わりが起こりやすくなる背景にも目を向ける必要があります。
保育士が違和感を気軽に共有できる仕組みをつくり、定期的に保育を振り返りながら、業務負担そのものも改善していくことが大切です。
子どもを守ることと、保育士が無理なく働ける環境をつくることは別々の課題ではありません。
保育士に余裕があり、一人ひとりの子どもと丁寧に向き合える環境をつくることが、不適切保育を未然に防ぐための重要な取り組みといえるでしょう。


